ここでは当研究グループが用いる、表層崩壊に関する新たな指標「IQS」について説明します。
我々は、実際に土中の水分量を計測し,「IQS」という新たな指標に着目することで、ある斜面が降雨によって崩壊する(潜在的な)可能性を持っているか否かを診断する斜面の健全度診断と,崩壊の可能性がある斜面において「いつ」・「どこで」崩壊が発生するのかを予測する斜面崩壊の予測を目的とした研究を進めております。※実際に土中の水分量を計測する方法は技術編で詳しく紹介しています。
まず、「IQS」を理解する上で欠かせないワードとして擬似飽和現象があります。
擬似飽和とは、
「不飽和状態下の鉛直一次元浸透が卓越している状況において、斜面内の任意の土要素における水の流入量と流出量が一時的に釣り合った状態」を表します。
・・・と、文章で書くと難しいので、図で表してみました。
擬似飽和とは、上からの水の流入量と下への水の流出量が等しい(平衡している)ということです。
図-擬似飽和の考え方
そこで、擬似飽和における体積含水率※1を
初期擬似飽和体積含水率「IQS」
(Initial Quasi-Saturated Volumetric Water Content)
と定義しています。
※1 体積含水率:土中の水分量。飽和度や含水比と同等の意味。
したがって、
斜面内部(土中)の任意の点において擬似飽和状態になる
=任意の点の体積含水率が「IQS」に到達する。
という表現となります。
先ほど説明したように、擬似飽和とは、斜面内の任意の土要素において、上からの水の流入量と下への水の流出量が等しい(平衡している)ことから、土中のある任意の点で擬似飽和の状態になると下の図に示すように、体積含水率は上昇も下降もしない一時平衡状態となります。
図-降雨時の土中の水分量変化
さらに、下の図に示すように
土の体積含水率がIQSを超えなければ、斜面が変形しない(変位が発生しない)ことが分かっています。
つまり、体積含水率がIQSに到達する時点を観測することで、
斜面の表層崩壊の予兆を検知できる可能性があります。