近年、国土の7割が山地で形成されている日本では、豪雨に伴う土砂災害、特に交通網の遮断などの経済的損失や人的被害をもたらすような斜面災害が多発しており、その対策が急務となっています。
ここでは土砂災害の種類について解説します。
○土砂災害の種類と前兆現象
土砂災害は大きく3種類に分けられ、それぞれに特徴と前兆現象があります。
1つめは、斜面の表層が、雨水の浸透や地震等で突発的に崩れる
「表層崩壊(がけ崩れ)」
2つめは、斜面の一部あるいは全部が地下水と重力の影響によってゆっくりと移動する
「地すべり」
3つめは、山腹や川底の石、土砂が長雨や集中豪雨によって一気に下流に押し流される
「土石流」
また、それぞれの土砂災害が発生する前には以下の図に示すような前兆現象が起こる時があります。前兆現象があった場合には、直ちに避難をしなければ死に至る災害でもあります。
図-土砂災害の種類と前兆(出典:内閣府広報室)
○中でも危険?表層崩壊(がけ崩れ)
国土交通省によると、全国で土砂災害の危険がある場所は、約53万箇所もあります。また、過去10年、土砂災害の発生件数は全国で年平均1000件を超えています。
中でも、降雨などにより発生する、表層崩壊(がけ崩れ)は下のグラフ(土砂災害の年度別発生件数)に示すように、土石流や地すべりと比較して多発しています。さらに、表層崩壊は突発的かつ崩れ落ちるスピードも速いため、逃げ遅れる人も多く、死者の割合が高いと同時に、一瞬にして構造物を破壊し多大な経済的損失を引き起こすという特徴があります。
すなわち、表層崩壊は他の土砂災害より多く発生する上に、死者・行方不明者数が最も多く、非常に危険な災害だということです。
出典:国土交通省、内閣府防災情報
そこで,当研究グループでは、突発的に発生する表層崩壊の崩壊メカニズム(リンク:斜面崩壊のメカニズム)を明らかにし、斜面に雨水が浸透する過程を「IQS」という新たな指標(リンク:新指標「IQS」)によって可視化し、変形が始まる前にその予兆を捉える研究を進めています。また、対象斜面が降雨によって、そもそも(潜在的に)崩壊するのかどうかを診断する、斜面の健全度診断を目的とした研究を進めています。 図-土砂災害の年度別発生件数(出典:国土交通省)
○「地名」ですぐに分かる災害が起きやすい場所?
私たちが暮らす日本は災害大国であるにも関わらず、いつどこで起きるか分かりません。
災害のリスクを知る手がかりの一つとして、私たちが住んでいる地域の地名があります。
地名から、過去にどのような被害があってきたか、そして今後も起こる可能性があるかのヒントとなる場合があります。
下の表にその一例をまとめました。開発や造成によって元の地形が分かりにくくなっている場合でも、地名からその土地が本来持っている特性を知ることができます。
災害に備える第一歩として、自分の住所に以下の漢字が含まれているかチェックしてみるのも大切かもしれません。
地域特性 | 意味・読み | 関連漢字(意味) | 起こりうる災害 |
---|---|---|---|
低地湿地 | 低湿地 | 池、谷、草、沢、澪、戸、洞、州、鶴、井、泉、行、滑、沼、代、瀬、島、堰、下、連、窪、久保、新田
など |
液状化洪水
津波 |
湧水・井戸 | 川、清水、泉、井、江 など | ||
谷 | 谷関連 | 谷津、谷地、谷戸、峡、入、江、沢 など | がけ崩れ土石流
地すべり |
窪地 | 洞、窪、久保 など | ||
谷の上側 | 山、岳、嶺、峰、曽根、岡 など | ||
がけ | がけ・斜面 | 坂、垂、欠、岸、傾、崩、刈、峡 など | がけ崩れ
地すべり |
がけ関連 | 日向、日陰、裏、腰 など | ||
崩壊地形 | クラ | 倉、蔵、鞍、暗 (がけ、深い谷、絶壁) など | がけ崩れ |
アズ・アツ | 小豆、厚、熱、安土 (土砂流出箇所) など | ||
スキ・ツキ | 杉、助、管、月、附 (土が空く) など | 地すべり | |
サル | 去、猿、佐礼 (ザレ(礫)) など | ||
埋立地 | ウメ、ウマ | 梅、埋、宇目、馬 など | 地すべり
液状化 |
造成地 | 新しい地名 | 新田、押切、緑ヶ丘、日の出 など |
※「技術ノート(No.39)」一般社団法人東京都地質調査業協会をもとに作成