○土壌雨量指数とは
斜面崩壊のメカニズムに記したように,崩壊は土中水分量の増加に起因して発生します。そのため斜面の危険状態を正確に把握するためには,前項で解説した降雨基準だけでは不十分で,土中の水分量に着目する必要があります。
そこで登場するのが,土中の水分量を数値として表現する土壌雨量指数です。
これによって,土の中にどれくらい水が蓄えられていて,どのように増減しているのかを知ることができます。
つまり,土壌雨量指数の登場によって「土中水分量の増減に着目した精度の高い崩壊危険予測」が可能となったという訳です。
○土壌雨量指数のしくみ
土壌雨量指数は図1に示すように,地盤を3段に連なったタンクと見なすことで算出されます。具体的には,各タンクの側面にある孔で周囲への流出を,底面にある孔で下層への浸透を表現しています。タンクごとに側面孔の役割は異なり,第1タンクでは表面流出を,第2タンクでは表層浸透流出を,第3タンクでは地下水としての流出を表しています。
ちなみに各孔からの流出量の計算は,タンク内に残っている水の量に対して一定割合を排出するというルールに基づいて行われます。各孔ごとに流出する割合(以後パラメータ)が定められており,このパラメータは全国一律の基準が決められています。
ここまでは土壌雨量指数を算出するしくみについてご説明しましたが,最後に一番肝心な算出方法についてご説明します!
それは…
意外と簡単で各タンクに残存している水分量を合計するだけです!
つまり土壌雨量指数とは,周囲への流出量を側孔からの流出量として求めることで,土壌内に残っている水分量を予測するというものです!
図-雨が土壌に溜まっていく様子とタンクモデルの対応
出典:気象庁
○土壌雨量指数の特徴
ここまで説明してきたように,土壌雨量指数は計算をするだけで土壌中に貯留されている水分量を予測できます。なので,実際に土中水分量の計測をする必要が無く,非常に簡便かつ低コストという利点があります。
一方で,孔からの流出量を計算する際に用いるパラメータが全国一律の基準に従っているので,個々の斜面における地質や植生を考慮出来ていないという欠点があります。
そのため精度面には不安が残っており,現在の土壌雨量指数のみで正確に崩壊危険予測を行う事は不可能です。したがって,簡便な土壌雨量指数で管理を行いつつも,危険斜面に対しては個別でモニタリングを行う必要があるといえます。
そこで斜面防災研究グループでは実際に土中の水分量を計測し,「IQS」という新たな指標に着目することで、ある斜面が降雨によって崩壊する(潜在的な)可能性を持っているか否かを診断する斜面の健全度診断と,崩壊の可能性がある斜面において「いつ」・「どこで」崩壊が発生するのかを予測する斜面崩壊の予測を目的とした研究を進めております。